バイバイまたね、クドリャフカ

「ごめん、なさいね。上がってもらってお礼したかったのに」

 先ほどとは違い、覇気のないしゃがれた声だった。私は早口でまくし立てる。

「いえ、こちらこそ体調が悪いのに長居してすみません。とにかく休んでくださいね。お体大事になさってください」

 病院にちゃんと行ってください、というのは言えなかった。公共交通機関もほとんど動いていない状態で、それがどれほど難しいことなのかわからないほど自分も現実を見えていないわけじゃない。

 お医者さんも、バスの運転手さんもみんな人間で、それぞれに家族や大事な人がいる。みんながみんな、どんなときでも職務をまっとうできる人ばかりじゃない。

 ここらへんでも機能している病院はひとつやふたつだ。それも個人経営の小さなもので、もし重症な病気なら県の中心部にある医療センターや国立病院などに行くしかない。

 こういうとき田舎はどうしても不便で不利だ。

 複雑な思いで理恵さんの家を後にして、私と穂高は歩き出した。手は繋いでいない。黙々と足を進めていた。

「穂高は優しいね」

 自分の中でざわついているなにかをぶつけるように私は彼に声をかけた。

「優しい?」

「うん。だってあの状況で送っていくって言えるんだもん」

 私はそこまで頭が回らなかった。受け答えに精いっぱいで理恵さんのためになにかできるとは思えなかったし、提案する余裕もなかった。

 だから少しだけ妬けてしまう。優しい穂高に。

「私は自分のことばかりで……」

「最初に彼女にハンカチを差し出したのはほのかだろ」

 きっぱりとした口調に、私は思わず続けようとした言葉を詰まらせた。

「そう、だけど」

 横に並んでいた穂高がちらりと視線をこちらに送ってきた。目が合うと彼は目線を前に戻し、口を開く。