バイバイまたね、クドリャフカ

「よかったら上がっていく?」

 ドアを半分開けた状態で理恵さんは思い立ったように聞いてきた。

「いえっ。遠慮します。そんなつもりじゃなかったですし」

「そう? ハンカチのお礼もしていないのに」

 きっぱりと断った私に理恵さんはどこか悲しそうだ。

「おひとりで大丈夫ですか?」

 穂高が気遣うように尋ねる。すると理恵さんは笑顔になり、さらにドアを開けた。

「平気よ。それにさっきはいないって言ったけど、実は一昨日から家族が増えたの」

 どういうことか尋ねようとして、玄関の靴箱の上にある鳥籠が視界に入る。ぱっと見、中に鳥がいるようには思えない。

 近くに寄るよう勧められ、私と穂高は遠慮がちに中に足を進めて鳥籠のそばに寄った。

「家の近くで怪我してるのを保護したの。早く元気になってくれたらいいんだけど」

 籠の下の方にひっそりとインコがいた。緑色が鮮やかで、可愛らしい。

 しかし右の羽がぼさぼさで不自然に毛が抜けて、飛ぶ素振りを見せない。病気というより、なにかの動物にでも襲われた感じだった。

「そういえば理恵さん、ここらへんで猫を見かけませんでした?」

 同じ考えに至ったのか穂高が質問した。

「猫?」

「茶色いぶちで、すごく体が大きいんです」

 私も補足する。けれど理恵さんは首を横に振った。

「見てないわね。探してるの?」

「私たちの猫じゃないんですけど……。『谷口商店』の息子さんが探しているみたいなんです」

「そうなの。でも谷口商店って久々に聞いたわ。まだしてるんだ。子どもの頃、そこの近くにある焼肉屋さんによく行ったのよね。こじんまりしたお店だったけれど、美味しくて」

 理恵さんは懐かしそうな顔をしながら『さすがにそちらはもうないか』と呟いた。そしてふっと含みのある笑顔を浮かべる。