バイバイまたね、クドリャフカ

 なにか言ってほしくて背後を歩く穂高に視線を送る。目が合った彼は複雑そうな表情を浮かべているので、少しだけ胸が軋んだ。

「あの」

「理恵さん」

 冷静な声で名前を呼んだのは穂高だ。私と理恵さんは足を止め彼に注目する。なぜか緊張している自分がいて、はっきりと彼から否定の言葉が出るのを待った。

 すると、どういうわけか穂高は私の頭にそっと手を置き、まったく予想していなかった内容を告げた。

「今、微妙なところなんですから、あまりほのかに余計なことを言わないでください」

 微妙? 余計なこと? 

 抽象的な穂高の物言いに私は混乱する。彼より私の方が現国も日本語も得意なはずなのに。

「そっか。それはごめんね」

 ところが理恵さんには通じたらしく、私だけ置いてけぼりだ。とはい自らこの話題を突き詰めてもいけない。意気地なしの自分。

「やっぱり地球が終わるときには誰かと一緒にいたいわよねー」

 唐突に理恵さんが前を向いて歌うように言い放った。

 月はうっすらとまだ空にいる。あれが地球に向かってくるとき、私は誰かといるのかな?

 一緒にいたいと思える人に会いに行くくらいの猶予はあるんだろうか。

 月城市から西牧村に入った看板を目にして、海沿いの大通りから奥の道へと入っていく。理恵さんの家は、どちらかといえば月城市寄りだった。

 水害を考慮してか、高めの階段を三段ほど上ったところに自宅はあった。昔ながらの、というかそれなりに年季が入っている。

 ドアだけ新しくしたのか、綺麗さが逆にアンバランスだった。