バイバイまたね、クドリャフカ

「ありがとう。驚かせてしまってごめんなさいね。でもおかげで少し楽になったわ」

 そこで彼女は手にしていたハンカチに目をやる。

「どうしましょう。ハンカチを汚してしまって………」

「気にしないでください! たいしたものじゃないですから」

 あたふたと大袈裟に返す私に女性は微笑む。やっぱり綺麗な人だ。私にはない大人の余裕というか色気というか、そういうのが備わっている。

 彼女は時刻表をちらっと見てから視線を戻した。

「とりあえず今日は帰るわね」

 私の心をモヤモヤしたものが侵食する。なのに原因も吐き出し方もわからない。

「よかったら送っていきますよ」

 さらりと申し出たのは穂高だった。女性は目を丸くし私も驚く。けれどすぐに彼の意見に賛同した。

「おひとりで帰りになにかあっても大変ですし、せめて近くまででもご一緒させてください!」

「でも、あなたたち用事があったんじゃないの?」

 穂高の顔を確認するようにうかがうと彼は軽く頷く。その表情は優しくて、私の気持ちを優先してもいいと言ってくれた気がした。

 だから私は『平気です』と力強く答えた。

 結局、押し切る形で女性を家まで送っていくことになった。ちょうど進行方向も同じだったので手間でもない。

 彼女は石津(いしづ)理恵(りえ)さん、二十四歳。

 大学進学をきっかけに県外に出て、そのまま就職したんだそう。しかし月の落下騒動があり、今月になって会社を退職。実家のある西牧村に戻ってきたんだという。