バイバイまたね、クドリャフカ

「病院ですか? どこか体調でも」

「大丈夫。今すぐどうこうってわけじゃないから」

 無理矢理作った笑顔だった。華奢な感じだからか、ほぼすっぴんだからか彼女の顔はみるみる青ざめていく。

 今にも倒れそうだと思った瞬間、彼女は顔を歪め口元に手をやった。さっと移動し、私たちから隠れるように奥の茂みの方で体を丸める。

 嘔吐しているとすぐにわかったけれど、あまりにも突然のことにどうすればいいのかわからず立ちすくむ。

 考えを巡らせ、とりあえず鞄からハンカチを取り出し、私は飲みかけのペットボトルの水を振りかけた。そして戻ってきた女性に差し出す。

「あの、よかったらこれ」

 彼女はためらいつつも、『ありがとう』と小さく告げて、私からハンカチを受け取った。口元に押し当て、大きく息を吐く。やはり顔色は血の気がなく青白い。

「大丈夫ですか?」

 聞いてから不適切な問いかけだと思った。大丈夫ではないのは火を見るより明らかだ。彼女は涙目で吐き気を抑えるように眉をしかめている。

「ご自宅はどこら辺ですか? ご家族は……」

 矢継ぎ早に尋ねそうになり我に返る。初対面の人間に不躾すぎた。ましてやこんな苦しそうな状態なのに。

 しかし女性は気を悪くするふうでもなく静かにかぶりを振った。

「家族はね、いないの。最近、こっちに戻ってきたんだけど、私一人で」

「そう、なんですか」

 歯切れ悪く答えると女性は口に当てていたハンカチをゆっくり離した。