バイバイまたね、クドリャフカ

「俺は平気だから」

 肩に腕を回され、ぐいっと力強く彼の方に寄せられる。おかげで私はそれ以上、穂高の顔が見えなくなった。密着度が増してダイレクトに温もりを感じる。

 私からの質問を誤魔化すためだったのかもしれない。

 それでも私はおとなしく彼に身を委ねた。穂高にもたれかかり目線を斜め上に向ければ、屋根で途切れた先に透き通るような青が広がっている。

「あのー」

 すっかり微睡(まどろ)みそうになっていた私は、突然の第三者の声に心臓が口から飛び出そうになった。

 必要以上に慌てて、目を泳がせる。すると若い女性が時刻表の前に立ち、こちらを申し訳なさそうな顔で見ていた。

「すみません、県庁前に行くバスって動いていますか?」

 か細い、鈴を鳴らしたような声だった。二十代くらいで檸檬色の半袖ブラウスにオフホワイトの膝下まであるロングスカートという組み合わせ。

 長い髪は後ろでは緩く束ねられている。化粧っ気がないけれど、はっきりとした顔立ちだ。私は思わず立ち上がる。

 ここから県の中心部までは、車でだいたい一時間ほど。バスならもっと時間はかかる。ところが今は――。

「いいえ。もうバスは動いてないんです。私鉄なら、まだ……」

「そうですか、ありがとうございます」

 私の回答に女性は伏し目がちになる。落胆する彼女に私はつい踏み込んで聞いた。

「どうされたんですか?」

「ちょっと病院に行きたくて」

 消え入りそうな声で彼女は告げた。