バイバイまたね、クドリャフカ

 新築さながらの家の前を通ると、玄関先には子どもの好きなキャラクターのオーナメントが並び『Welcom』の文字が太陽の光を反射している。

 ところが家中の雨戸は閉められ、花壇は荒れ放題だ。どんな家族が住んでいたのかさえ記憶にない。

 どこに行ったのか、と考えるのさえ無駄だ。一軒ですまないのだから尚更。変わり果てた家々を横目に私はとにかく足を動かす。

 どこまで行こう。前へ前へと進んでいき結局、下の大通りにまで出ていくことにした。車だとかなり回り込まないとならないけれど、歩行者専用の階段を使えば下まであっというまだ。

 静かな町を一度見下ろし、一歩一歩灰色の無機質なコンクリートの階段を踏みしめていく。先を見つめず足元だけに集中していると、やがて大通りにでた。ここで少しだけ車や人の気配を感じる。

 ふーっと大きく息を吐くと、二十代くらいのカップルが階段のすぐそばで手を繋いで空を見上げていた。

 ドキッとしたのは私だけで、ふたりとも私なんて眼中にない。

「ねぇ、また大きくなってない?」

 女性が怯えた表情で男性の手を引く。男性の顔も強張っていた。まだ昼間だというのに、今から肝試しにでもいくかのようだ。

「やめろよ、お前。縁起でもないだろ」

「だって……」

 女性は今にも泣きそうな気配だ。私は彼らから視線をはずし、空を仰ぎ見る。

 あー、たしかに大きくなっているかも。

 東の空に浮かぶ月。昼間なのでほんのり白く、しかしはっきりと存在を主張している。太陽よりもはるかに。