「今の俺の家族はじいちゃんとミケなんだ」

「そっか。俺たちも気にかけとくよ。ミケ、見つかったらいいな」

 優しく答えたのは穂高だった。少年は笑顔になる。

「俺んち、『谷口商店』ってとこだから、品数少ないけどよかったら寄ってよ。じいちゃんも喜ぶだろうし。じゃあ俺、猫を探すから!」

 再び道路を渡り、民家側の細い道に入っていく少年を私たちは見送った。元気いっぱいのように見えて、彼なりに背負うものはきっと色々あるんだろう。

「家族がいなくなったら探すのは当然だよね」

「ほのかの家族は?」

 突然の質問に目を瞬かせると穂高は困ったように笑った。

「俺は出かけてくるって伝えたけど、ほのかは大丈夫? こんな状況だし、ちゃんと連絡しておかないと……」

「うちは平気」

 彼の心配を払拭するように明るめの声で私は答えた。そして自分から足を進めだし、先を促す。

「お父さんは警察官で忙しいの。ここらへん一帯を担当しているみたいで、それこそこのご時世、治安も不安定なのに人手も足りないし、いつも忙しくていつ帰ってきているのかもわからないくらいだし」

 彼の顔を見ないまま一方的にまくし立てる。波の音、そして蝉の声がやっぱり煩い。太陽がまた顔を覗かせ、地面を明るく照らしだす。

「お母さんは? それにほのか、妹がいるって言ってなかったか?」

「……ふたりとも、もういない」

 予想通りの沈黙がふたりを包む。もしかして穂高は今、さっき少年に質問して答えが返ってきたときの私と同じような気持ちになったのかな。だとしたら申し訳ない。

 でもフォローの言葉も浮かばず黙々と足を動かす。そうやって彼よりも先に歩いていた気がするのに、いつのまにか地面に映る私たちの影は並んでいた。