「私も……同じだよ」

 出せた声は震えていた。まるで罪を告白するみたいに。

「私も自分が助かりたくて、誰かを犠牲にするかもしれない。誰かの命で大勢の人が……自分が助かるならイエスって言うかもしれない」

 自分の中にもそんな感情が眠っているなんて思いもしなかった。汚くて醜い真っ黒な部分。

 それでいて世界のためにも、誰かのためにもなにかしようと動くこともできない。非力で無力で、自己嫌悪に陥って殻に閉じこもっているだけ。

 もっと自分になにか誇れるものがあったら。渡辺さんみたいに自分は当然、特別な人間だって思えるほどの揺るぎのないものがあったら――。

「私はどうして生きているのかな?」

 生まれてきた意味って? 私の価値ってなんだろう? 

「ほのかが生まれて、今日まで必死で生きてきたから今ここにいるんだろ」

 深みにはまりそうな思考を、穂高の力強い声が引き戻す。まっすぐな眼差しが私を見据えていた。

「誰かを犠牲にするにしたって、ほのかはきっと結論を出すのにすごく迷うんだと思う。現に今も迷っているんだろ。正しい、正しくないかじゃなくて、自分の気持ちの奥底にあるところで」

 疑問系じゃなく確信めいた言い方は、反発心どころかストレートに私の心に飛び込んでくる。一つひとつ、はっきりと彼から紡がれていく言葉が沁みていく。

 穂高はふっと優しく微笑んだ。