バイバイまたね、クドリャフカ

「そんなことない。だいたい、特別や価値って誰が決めるんだよ」

 珍しく怒った口調だった。私はぎこちなくも微笑む。

「本当、そうだね」

 そこで私は唐突に話題を振った。

「冬休み前、現国の時間に出された課題の内容を覚えてる?」

 前触れのない会話のパスに穂高は大きい目を瞬かせた。

「『一人の命で多くの人の命が助かるのだとしたら』ってやつだよ」

「ああ」

 私の簡単な説明で彼はすぐに思い出したようだ。私はわざと明るく続けた。

「あのときは、いまいちピンとこなくて、自分の考えもはっきりさせられなかったんだ。おかげでどう課題に取り組もうか悩んだけれど、今この状況なら誰もがイエスって答えそうだよね」

 わざと穂高の顔は見ずに前を見据える。映画にありそうどころかリアルにありえそうな事態になってしまった。

「ほのかも?」

 穂高の問いかけに言葉を迷い、私はそっと目を伏せた。

 月が地球に落ちてくる可能性が高くなって、今まで以上に理不尽な出来事が増えた。

 なにも悪いことをしていない善良な人たちが簡単に亡くなって、自分勝手で他者を押しのける人たちがまだ生きていたりする。裁く人も咎める人もいない。

 希望を抱くのも馬鹿らしい。けれどそうやって人の醜さが露わなっていく世界で、つらいニュースや報せを聞くたびに胸が締めつけられるのは、非難からでも絶望からでもないと気づいてしまった。