バイバイまたね、クドリャフカ

 右手には大きな塀があり、その向こうからは規則正しい波の音が聞こえる。私の身長では見えないのが残念だ。すぐそこは海だった。

 潮風と波音で存在を主張している。県庁所在地から大きく東に離れた月城市は山あり海あり川ありと自然の恵みたっぷりで、大きな道路はこうして海沿いに作るしかなかった。

 田舎だと馬鹿にする人もいっぱいいるけれど、私はこの生まれ育った場所が気に入っていた。

 ところが今は自然や環境という言葉は無視され、道にはプラスチックの容器や紙くずなど様々なものがが散乱していて綺麗とは言えない。

 乗り捨てられたような自転車が無残な姿で横たわっている。目を背けたい気持ちに駆られながら私は意識を切り替えた。

 ちらちらと視線を飛ばしながらも左手に注意がいく。穂高とは彼の家を出発してから手を繋いだままだった。

 男の子と手を繋いで歩くという経験なんて幼稚園以来だ。

 勢いで繋いでしまったものの冷静になると、恥ずかしさと緊張で手に汗が滲むんじゃないかと心配になりますます心臓が早鐘を打ちだす。

 振りほどきたい衝動に駆られながらも、私の手は思ったよりも彼に力強く握られているので余計な抵抗はできない。

 きっと彼にとって大きな意味はなく、足元が悪いから転ばないようにと気を使っただけなのかも。

「あまり車通らないね」

 意識を逸らしたくて苦しまぎれに私は呟く。県の中心部からここら辺の市や村へと繋ぐ唯一の大通りなのにほとんど車が通らない。

 もうすぐ高速道路が開通するって話だったのに、それも中途半端に終わっているらしい。

 どこもかしこも渋滞だったのは、月が地球に落ちてくるというニュースが流れた直後の話だ。キャンピングカーが飛ぶように売れ、生産はすぐに追いつかなくなった。