バイバイまたね、クドリャフカ

 彼に会うつもりでもなかったから、お洒落とか女子っぽさとかは意識していなかった。

「変かな?」

「いや、似合ってるよ」

 ストレートに褒められ、私は無意識に帽子のつばに触れた。

「安曇くんも……」

「穂高」

 なにげなく口にして、彼に強く言い直される。

「名前でいいって言っただろ。俺も呼んでるし」

 むず痒くも温かい気持ちになる。彼の顔を見られないまま私は静かに頷いた。

「うん。穂高の私服も初めて見るけど、よく似合ってるよ」

 ブイネックのボーダーシャツに白い七分袖シャツを羽織り、細身のジーンズを合わせている。シンプルだけど知的な感じがして彼らしい。

「元がいいから」

「そうだね、穂高はカッコイイよ」

 茶目っ気を交える彼に私も応酬する。彼は柔らかく微笑み私に手を差し出した。

「行こう、ほのか」

「うん」

 私は迷わずに彼の手を取った。

 不思議。世界が終わらなかったら、月が地球に落ちてくるなんて状況を迎えなければ、私はこうして彼と一緒に今ここにはいない。

 夜の海みたいに不気味で容赦のなくすべてを飲み込みそうな存在から逃げるために外に飛び出した。逃げ切れるわけもなくて、いっそのこと飲まれてしまった方が楽になるのかもしれないと何度も思った。

 抗うだけ無駄なのかもしれない。でも、その先に掴んだものがこの手なのだとしたら――。

 繋がれた手は骨ばっていて私よりもずっと大きい。力強く一歩足を進め、私は彼と世界の終わりにも関わらず無謀な冒険に出かけた。