バイバイまたね、クドリャフカ

「今から行けば夜にはつくよ」

「本気なの?」

「もちろん」

 腕時計を見ておおよその見当をつける彼に、私も時間を確認する。午後一時半。

 隣村まで海岸沿いのバイパスを歩いて十キロほどだ。ただ天文台は山の上の方にあるので、なんとも言えないけれど。

「でも、行っても施設が動いているとは限らないよ? 誰もいなくて閉まっているかも」

「大丈夫。あそこの管理者さんと知り合いだから。あの人は、きっといるよ」

「この状況で?」

「この状況だからだよ」

 あっけらかんと返してきた彼に私はますます意味がわからない。世界がいつ終わるかもしれないというときに、真面目に仕事をしている人はほんの一握りだ。

 かろうじて電気や水道はまだ通っているけれど、スーパーや病院、公共交通機関などはごく一部しか機能しておらず、私たちの生活は不便さと縮小を強いられている。

 ここは田舎だからとくにだ。

「月が落ちてくるかもしれないなんて事態、天文マニアからすると絶対に見逃すわけにもいかないだろうしね」

 私は開いた口が塞がらなかった。彼を含め宇宙や星が好きな人たちの考え方は、私には衝撃的だ。でも、なんだか羨ましい。

 ずっと忘れていたワクワクするという感情が自然に湧き起こる。この逸る気持ちは不安や絶望が原因なんかじゃない。

「世界が終わりそうなときに星を見に行くなんて。私たちって馬鹿なのかな?」

「なんで? 終わりそうなんだから好きなことをしない方が馬鹿だろ」

 彼の切り返しに私は笑った。本当だ。誰になにを遠慮する必要があるんだろう。