「で、いきなりどうしたんだよ?」

 わざと明るめに振られた彼の質問は真っ当なものだった。でも言葉が続かない。

 本当に久しぶりに外に出て、そこで月に怯えるカップルに偶然に会って、そのとき彼の言葉を思い出して……。

 あれこれ思い巡らせた結果、私は正直な部分を打ち明ける。

「会いたく、なったの」

 しかし発言してすぐに後悔と羞恥心に襲われる。

 これでは、まるで恋人かなにかだ。私たちは普通のクラスメートよりは親しかったかもしれないけれど、そんな特別な関係でもない。

 慌てて言い直そうと口を開こうとした瞬間、先に彼が続けた。

「俺も会いたかったよ」

 耳鳴りがしそうなくらい部屋が急に静まり返った気がした。彼の顔は穏やかで、からかいなどもなく真面目だった。私の訂正の言葉を封じ込めるほどに。

 続いて数秒遅れで体が勝手に反応する。血が沸騰したんじゃないかと思うほど全身が熱くなり、勢いよく私はうつむいた。

 膝の上で握り拳を作り、存在を煩く主張する心臓の音が体中に響くのをただ受け入れる。

 いちいち彼の言葉に翻弄され過ぎだ。彼がストレートな物言いをするのは、もう十分にわかっているはずなのに。そもそも私だって同じことを彼に言ったわけで……。

「ほ、他にも学校の誰かに会ったりした?」

 訂正しない代わりに無理やり話題を変える。ちらりと彼を見れば、少しだけ複雑そうな表情をしていた。

「……いや。ほのかだけだよ」

 それでも律儀に答えがあり「そっちは?」と返されたので私も、素直に答える。

「私も、誰にも会っていない。ずっと家に籠っていたから」

「なら、今ここにほのかがいるのは地球が助かるのと同じくらいすごい確率なんだ」

 今度はおどけた口調で告げられた。おかげで私も乗っかる。