ベッドの真向かいには小さなソファがあって、奥には勉強机。隣には大きな本棚がある。小型の冷蔵庫もあって、少しだけ羨ましく思った。

 壁には外国人バスケットボール選手のポスターが貼ってあったり、本格的な天文表も目を引く。

 本棚には意外にも漫画が並んでいて、彼の年相応さを感じた。それでいて難しそうな分厚い英語の本が半分以上を占拠している。

 相場は知らないけれど、そこそこ値段が張りそうな望遠鏡が窓際に存在感を放ちながら陣取っていた。

 アンバランスのようで心地いい。それはここが彼自身を凝縮させたようなものだからなのかも。

「元気にしてた?」

 ふと問いかけられ、私は彼に意識を戻した。ソファに座るよう勧められ、おとなしく腰を下ろす。

 彼は小さな冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取りだすと、こちらに手渡してきた。小さくお礼を告げ、私はようやく返答する。

「それなりに。そっちは?」

「見ての通りかな」

 正面のベッドに座り、彼はペットボトルの蓋を回した。カチカチという独特の音が部屋に響く。

 彼は数種類の錠剤を手に取り、口に含む。食糧不足の今はこうしてサプリメントでカロリーや栄養を補ったりするのが当たり前だった。

「アメリカには帰らなかったの?」

 今度は私から問いかけたが、彼は水を飲んでいるのですぐには答えない。豪快にゴクゴクと飲む姿は男子っぽかった。

 自分にはない喉仏が上下するのをぼんやり見つめる。そして、彼がペットボトルから口を離した。

「色々事情があって」

「そっか」

 なんとも表面的なやりとり。でも深くは聞かないし、聞けない。年が明けてから今まで、なんの苦労も苦悩もなく過ごせた人はきっといない。

 そこは暗黙の了解だ。