『とにかくあがりなよ』という言葉を受けて、迷いながらも私は家にお邪魔する流れになった。

 外観からの予想を裏切らず中の作りも立派で、モダンとでもいうのかな。いい具合に和洋折衷で大きな油絵なんかも掛けてある。

 先ほどインターフォン越しに対応したのは、彼の祖母で『おばあちゃん』というより『マダム』と呼ぶのがぴったりの素敵な老婦人だった。

 髪は白いけれど艶があり、毛先は緩やかに丸まっている。おそらく癖毛なんだろうな。髪質の硬い私とは正反対だ。

 やはり彼女の顔にも疲労感が滲んでいて、いきなり現れた来訪者に戸惑いつつも受け入れてくれた。

 安曇穂高はさっさと二階の自室に行くよう促すので、私は躊躇いつつも彼についていく。

「どうした?」

 この質問は、私が彼を尋ねてきたことに対するものではなく、彼の自室の前で足を止めたことに対してだ。

「えっと、よく考えたら男の子の部屋に入るのって初めてだなって」

 そもそも男子の家に来たのも初めてかもしれない。理由を白状すると、安曇穂高は吹き出した。

「家まで押しかけておいて、今さら?」

「そ、そうだね」

 我ながら大胆な真似をしたと思う。世界の終わりじゃないと、きっとこんな行動は取らなかったし、取れなかった。彼は笑って自室のドアを開ける。

「大丈夫。俺も女子を部屋にあげるのは初めてだから」

 私を気遣っての彼の言葉にどういうわけかホッとする。同じ初めてだからかな。浮上した気持ちを抑えつつ部屋に足を踏み入れた。

 私の自室より広く、余裕で十畳ほどはあり、失礼を承知で部屋中に視線を飛ばす。異性とはほぼ縁なく生きてきたので、なんだか新鮮だ。