バイバイまたね、クドリャフカ

 だから、私はとっさに「違う!」と否定しなければという気になった。けれど喉まで出かかった声は音にならず自分の中に再びぐっと飲み込む羽目になる。

 否定したところで私は自分の答えをはっきりと見つけられていないから。

 私はどう思うの? 誰かの命で大勢の命が救われるなら。もしも自分の命で――。

『安曇くんは……』

『穂高』

 はっきりとした口調で彼は言い聞かせるように自分の名を口にした。目をぱちくりとさせる私に彼は頭を掻いて補足する。

『今さらだけど名前でいいよ。アメリカではそれが普通だったし』

『いや、でも』

 まさかの提案に私はうろたえた。そんなことをしたら彼に気のある女子たちになにを言われるか。彼の告白現場を目の当たりにしているから余計にそう思う。

 とはいえ、今まで現場に居合わせる機会がなかっただけで、風の噂で彼に想いを告げた女子が何人もいるのを私は知っている。

 その結果がすべて実らなかったことも。

 私が彼と張り合うだけの成績だからこうして一緒にいるのを許されているのであって、いいように思っていない人間が多いのも事実だ。

『なら、俺もほのかって呼ぶから』

 なのに彼はそんな私の事情などおかまいなし。勝手に話を進めていった。

『なんだか俺たちの名前って似てるな』

 “ほだか”と“ほのか”。たしかに一文字違いだ。彼はすごい発見をしたとでもいうように顔を輝かせている。続けて真面目な表情に切り替わった。

『運命かも』

『なんの?』

『それは、これから考える』

 彼の回答に私はやっぱり笑ってしまう。クリスマス前に冬休みがやってくる。夏休みや春休みに比べると短いけれど、彼に会えなくなるのは少しだけ寂しかった。