バイバイまたね、クドリャフカ

『今日の課題どう解く?』

 パラパラと教科書をめくる彼に、私は現国の授業内容を思い出してつい眉をひそめた。そして慌ててすぐに戻す。あまり不細工な顔を彼に見せたくない。

 気を取り直して、先生から配られたレポート用紙を鞄から取り出した。

『難しかったよね。どういう切り口でまとめようか』

 宙を仰ぎ見てため息混じりに呟く。授業で取り組んだ論説文のテーマは『命の平等さ』

 緊急時に自分の命を助けるために他者を犠牲にした場合、罪に問われるのか?というカルネアデスの板の話題から始まり、様々な角度から命の重さについて話は進んでいく。

 そして最終的に筆者の問いかけで文章は締めくくられる。

『各々の命の重さが同じなのだとしたら、ひとりの命で多くの人間の命が救われる事態になった場合、それは是か非か』

 私はわざとらしく息を吐いた。

『アメリカ映画によくありそうな展開だね』

 映画にはあまり詳しくないからあくまでもイメージなんだけれど。投げやりな私に対し、彼はふふっと笑った。
 この命題に対し冬休み明けまでに自分の立場を明確にさせ、考えをまとめたものを提出しなくてはならない。

 いつもこういった問題は書きやすい方の視点に立ってから文章を組み立てるのに、今回はそれ以前の問題だ。

『安曇くんはどう思う?』

『俺は、ありかな』

『そうなの!?』

 あまりにも迷いのない彼の回答に私はつい反射的に声をあげた。まじまじと見つめる私に彼はおもむろに目線を落とした。

『どうせ限られた命なら、誰かの、なにかのために役立てたいって俺は思うんだ』

 どうしてか、彼の言い分がものすごく寂しく感じた。訳がわからないまま勝手に衝撃を受けている自分がいる。