バイバイまたね、クドリャフカ

 美人で大人っぽいと評判で、さらさらとストレートの髪が揺れている。

 家が大きな病院をしていて、お父さんが全国的にもかなり有名な凄腕のお医者さんだ。彼女も同じく医師を目指していて、勉強の他にもバイオリンとバレエを習い、その腕前も数々のコンクールで入賞するほどだ。

 高嶺の花扱いなのも無理はない。

 実らなかったとはいえ、彼女の告白には迷いもなく堂々としていて、自分に自信があるのが伝わってきた。ここでこそこそと隠れている私とは大違いだ。

 比べるのもおこがましくなり、私は大きく息を吐いてうつむいた。

『遅かったね』

 完全に油断していたところに声がかけられ、私の心臓は飛び上がる。反射的に顔を上げれば彼がひょいとこちらを覗き込んでいた。心なしか距離が近い。

『モル計算について聞けた?』

 なんでもないかのように問いかけられ、私は平静を装って答える。

『うん。分子量の単位が曖昧でこんがらかってたんだけど解説してもらえてなんとか理解できたよ』

 彼は安堵めいた笑みを浮かべると再び部屋に戻ろうとする。自然と後を追った。

 教室には誰もいない。さっきまで彼と渡辺さんがここにふたりでいたのだと思うと、なぜか胸が痛んだ。

『安曇くん』

 私は彼を呼び止める。すると不思議そうな面持ちで安曇穂高が振り向いた。

 告白されたばかりだというのに、彼は動揺というものを微塵も見せない。モテるのは知っているし、きっと彼にとってはあんなこと日常茶飯事なんだ。