バイバイまたね、クドリャフカ

 親しくなって一緒に過ごす時間が増えても彼との関係に大きな変化はなかった。 色々と話した中でも、ちょうど去年の冬休みに差しかかる前に彼と会話した記憶はしっかりある。

 だってあれが最後だったから。

 その日の放課後も私は教室で彼と期末試験の対策をしようと約束していた。彼と教室で勉強する前に、化学の授業でわからない箇所を質問するため私は先に職員室に向かう。

 すると思ったよりも先生の説明は丁寧で長く、私は彼をひとりで長い間教室で待たせてしまった。

 足音を立てずに素早く教室を目指し、謝罪の言葉と同時に中に入ろうとする。

『安曇くん、好きです。付き合って』

 ところが聞こえてきた言葉に、ドアを開けようとした私の手が思わず止まる。瞬時に存在も息も必死で押し殺して、その場で固まった。

『ありがとう。でもごめん。付き合えない』

 あまり間を空けずに凛とした彼の声も聞こえてきた。

『なんで? ほかに好きな人がいるの?』

 切羽詰まった女子の声。彼女の質問に私もわずかながらに緊張する。そして偶然とはいえ、私が聞いてはいけない気がした。

 でも足が床にくっついて動けない。

『……どうだろう。でも俺はここにずっといない存在だから』

『アメリカに帰るってこと?』

 彼はなにも答えない。ややあってしびれを切らしたのか誰かがドアの方へ、こちらへ近づいてくるのがわかった。

 私は慌ててすぐそばの消火栓の影に身をひそめる。出て行ったのはもちろん女子の方で、うしろ姿しか確認できなかったけれど、おそらく隣クラスの渡辺(わたなべ)さんだ。