セミの声がうるさい。

 勉強机に向かっていた私は現国の参考書を閉じて、じっと耳と澄ませた。

 毎日変わらずに繰り返される騒音。もう随分と前からずっと鳴いている気がする。

 カレンダーを睨めば七月末。あと数日で八月だ。カレンダーをめくる必要があるのかは謎だけれど、一か月前も同じ感想を抱いた。

 私が単純なのか、他になにか思うほど刺激のない日々だからなのか。

 まだ七月、もう七月。セミたちは梅雨明け宣言を自分たちがするかのように、いっせいに鳴きはじめた。

 この辺にこんなにセミっていた? 去年はどうだったかな? もしかすると単に私が気づかなかっただけで、去年もそれくらいから鳴いていたのかもしれない。

 静かになったおかげで、彼らはよりいっそう存在を主張できるようになった。変わったのは認識する私たちの方だ。

 やっぱり人間って勝手な存在だな。

 結論づけて私、紺野(こんの)ほのかはなんとも言えない気持ちになる。一言では言い表せない複雑な感情。黒い波に攫われたくなくて、無心で机に向かっていたのに。

 きっと問題が悪かった。『人類の宇宙進出の歩みについて』というテーマの論説問題は今は解く気にはなれない。

 シャープペンシルを問題集の上に転がし、私は椅子の背もたれに体を預ける。

 見慣れた天井をぼーっと仰ぎ見ると、自分の意志に反してあれこれ思考が脳内を駆け巡っていった。

 私は、ずっとこのままなのかな? でも、それでいいって決めたじゃない。今さらなにに抗うの? なにをしようとするの? 全部、無駄なのに。どうせ――。