バイバイまたね、クドリャフカ

 勉強を教え合う中で、彼とは他愛ない話をたくさんした。そのどれもが取るに足らないものだった気がする。

『安曇くんはなんでもできるスーパーマンだと思ってたよ』

 問題集を一緒に解きながら、私はなにげなく彼の印象を口にした。嫌味でもなく本音だった。

『そんなわけないだろ。普通の高校生だよ』

 彼は怒る素振りもなく困惑気味に笑う。その表情がさらに私を突っつかせる。

『本当に普通の高校生が聞いたら怒るよ?』

 そんなルックスで、優しくて英語もペラペラ。おまけに頭もいい。なのに謙虚さも忘れず控えめな性格とくれば女子はもちろん、男子だって憧れている人間は数知れない。

 しかし私は、発言してからふと思い直した。

『ごめん』

『どうした?』

『安曇くんにとっては普通のつもりなのかもしれないのに、こっちの価値観を押し付けちゃったから』

 ペンを置いてしおらしく素直に謝った。私は昔からこんなふうに、つい物事をズバズバ言ってしまうところがある。

 それで友達とトラブルになって、離れていった友人もいる。悩みを相談されるときは親身なアドバイスより、うんうんと同調するのが一番だと学んだのは最近の話。

 なんとか意識して直そうと試みているけれど、なかなか難しい。もっと空気を読まなきゃ。

 彼にも悪いことをしてしまった。そう思っていると――。

『いいよ。俺、紺野さんのそういう素直で飾らないところ好きだから』

 安曇穂高は綺麗な歯列を見せて笑った。可愛いと思うのは失礼かもしれない。でも、やっぱり彼はできた人間だった。

 『好き』となにげなく口に出せてしまうのもきっと彼がアメリカ育ちで英語の方が得意だからだ。LoveじゃなくてLike。言葉のあや。

 意識するだけ無駄な気がして私は彼と向き合っている問題に集中した。