バイバイまたね、クドリャフカ

「たった一人でも望んでくれるなら、生きている意味も価値もある。ほのかが気づかせてくれたから」

 それは私の台詞だ。大勢に認められなくても、なにか特別に秀でていなくても、出会えたあなたがいたから。

 穂高は相好を崩し、いつもの屈託のない笑顔を見せた。

「惹かれていったんだ。ほのかに会って、実際に話してみて、一緒に過ごすうちに。他人との関係に悩みながらも、人のことを放っておけなくて、お節介で。本当は誰よりも素直で優しいところに俺もたくさん救われた」

「惹かれたのは……救われたのは、私も同じだよ」

 涙混じりの声で返す。

 この期に及んでも、私はあなたのために生まれてきたんだって言えるほどの自信が私には持てない。こうやって私はこれからも自分の弱さに迷うし、悩むんだと思う。

 けれど、私はもう生きるのを諦めたりはしない。

 ふと視線を上に向ければ、彼の背中越しに月が見えた。青空にぽっかりと浮かぶのは、今までに見た中で一番大きく存在を主張する白い月だった。

 ああ、綺麗だな。

 歪に欠けた月を見て、初めてそんなふうに思えた。

 終わるかもしれないからじゃない。そのために私たちは再会したわけじゃない。ただ、今を一緒に生きるならあなたがいい。それだけ。

 私のわがままだってわかってる。でも彼をクドリャフカにさせるわけにはいかないの。多くの人の星にはなれなくても、私と一緒に生きてほしい。

 ごめんね、ちゃんと覚えておくから。バイバイまたね、クドリャフカ。

 大切な人の顔をひとりずつ思い浮かべ、そして今、一番大事な人がそばにいる現実を噛みしめる。

 潮風がゆるやかにそよぎ、すぐそばにある波の音がどこか遠くに聞こえる。まるで今の私の心を表すかのように穏やかだ。

 私、幸せだ。

 伝わってくる穂高の温もりに身を委ねて、私は静かに目を閉じた。

Fin.