バイバイまたね、クドリャフカ

「今、伝えなかったらいつ伝えてくれるの? 私、ずっと待ってたんだからね」

 私の切り返しに穂高も目をぱちくりとさせると、すぐに顔を綻ばせた。慈しむように頬を撫でられ、彼の唇が耳元に寄せられる。

「――――」

 言い終えると同時に、穂高は再び私を自分の腕の中に閉じ込める。私は彼の言葉をしっかりと噛みしめた。

「詳しくは話せないけれど、実験段階だった軌道エレベーターとスペースコロニーの実用化を進めているんだ。帰れないのを覚悟して何人もが先に宇宙に旅立った。それでも安全性や実用化を考えたら、確率は――」

 反射的に私は彼の唇にそっと指先を添えた。目を丸くする穂高に微笑む。続きはいらない。

「もう確率はいいよ。未来は誰にもわからないんだから」

 今この瞬間に、穂高が生きて私のそばにいるならそれだけで十分だ。彼の唇から指を離すと穂高は整った顔を歪め小声で続けた。

「本当は、俺も行くべきだった。いくつかの実験に協力したけれど、帰って来られないとわかっているからこそ、最後は俺みたいなのが宇宙に……」

 そこで風が凪いだ。波の音さえも消えて沈黙と静寂が降ってくる。ややあって口火を切ったのは穂高だ。

「でも、約束しただろ、ほのかのところに帰ってくるって。本当は俺も生きたかった。大勢のためじゃなくて、自分やほのかのために命を懸けていきたい」

 私はぐっと唇を噛みしめる。穂高の誓いにも似た決意を涙で邪魔したくなかったから。その代わり瞬きもせず彼をじっと見つめた。