「ただいま、ほのか」

「遅い! 遅すぎるよ!」

「でも、間に合っただろ?」

 感情的になる私とは対照的に、穂高はいつも通りだ。たくさんの文句を言ってやりたいのに、それよりも先に涙が溢れる。

「ふっ……」

 泣くつもりなんてなかったのに。もしも再会したら笑顔でって決めていたのに。私の思惑も計画もまったく意味なし。

 目尻から伝う涙を自分ではどうしても止められず、手の甲で頬を擦る。次の瞬間、穂高は正面から私を力強く抱きしめた。そして真剣な声色で謝罪の言葉を口にする。

「ごめん」

 ああ、もう。結局私はこうして彼を許してしまうんだ。だって帰ってきてくれたんだから。言葉を発する代わりに彼の背中に腕を回すと、押し留めていた本音が口を衝いて出た。

「会い、たかった」

「うん、俺もだよ」

「もう、駄目かと、思った。会えない、かもしれないって」

「うん」

「でも……信じてた。ずっと、ま、待ってたんだよ」

「うん。ありがとう、ほのか」

 答える度に彼の腕に力が込められる。嗚咽混じりに訴えかける私を、穂高は余計なことはなにも言わず、ただ受け止めてくれた。

 大きな手で頭を撫でられ、私の気持ちは次第に落ち着きを取り戻していく。彼のシャツを涙で濡らしたところで軽く身動ぎし顔を上げた。

「ねぇ、穂高は――」

 続けようとした言葉は声にならない。彼が唇を重ねてきたからだ。驚きのあまり私は目も閉じられなかった。動揺するまもなく唇が離れ、穂高は至近距離で尋ねてきた。

「取っておいた言葉を今、伝えてもいいかな?」

 真面目な顔で聞かれ、私は目を大きく見開く。続けて口元を緩めて笑った。