バイバイまたね、クドリャフカ

 けれど私は彼の元へと迷わずに駆け寄った。

『各々の命の重さが同じなのだとしたら、一人の命で多くの人間の命が救われる事態になった場合、それは是か非か』

『安曇くんはどう思う?』

『俺は、ありかな』

『そうなの!?』

 穂高の複雑そうな表情をしっかりと捉えながら、彼がなにかを言う前に私は強く叫ぶ。

「クドリャフカにならないで!」

 膝に手をつき肩で息をする。止まった瞬間、汗が噴き出してきた。必死で呼吸を整えて私は言葉を続ける。

「なら、ないで。だって十分だから」

『どっちみち長く生きられないなら、なにかを成し遂げたい。自分の生きた意味を残したいんだ』

「クドリャフカにならなくても、もう十分だよ。穂高が成し遂げたものはたくさんある。生きている意味だって。私は穂高がいたから変われた。諦めていたものにまた手を伸ばすことができたの。それは穂高が生まれて、ここまで生きてくれていたかなんだよ!」

 もう終わるからってすべてを受け入れていたわけじゃない、諦めていただけの自分。けれど穂高が手を差し出してくれたから、こんな終わりそうな世界で私は歩き出せた。たくさんの人に出会えた。

『自分から生きるのを諦めるなんて、頂いてきた命に示しがつかねぇだろ』

 命の重みを改めて教えてくれた谷口さん。

『そしたら地球が助かるって証明できんだろ?』

 明るくて、でもしっかりと周りを見ている健二くん。

『確率だけ考えても意味ないのよ。未来は誰にもわからない』

 人の心配ばかりで世話焼きの樫野さん。

『ひとりじゃないからここまで生きてこられたんです』

 優しくてお母さんとしての強さもある理恵さん。

『みんな荷台にでも乗り込んで必死で生きようと逃げるんだろ』

 外見も怖くて言葉もストレートだけど根はいい人の宮脇さん。