バイバイまたね、クドリャフカ

 目を覚ますと、部屋の中はほんのり自然光の明るさで照らされていた。まだ太陽が昇る前独特の色だ。

 そこで意識が覚醒し、がばりと身を起こす。ここは自宅ではなく樫野さんの家で、どうやら私はあのまま眠ってしまったらしい。

 状況を把握したところではたと気づく。肝心の穂高の姿がどこにもない。

 急速に心がざわめきだし、私は部屋のあちこちに視線を飛ばしてからドアを開けた。廊下にも彼の姿はない。なんとなくこの家に穂高はいない気がした。

 昨日ずっとすぐそばにあった彼の気配が今はない。

 私は慌てて隣の部屋に戻り着替えると、樫野さんや理恵さんを起こさないように家の外に出た。まだ時刻は午前六時にもなっていない。

 久しぶりの朝焼けに目が眩(くら)みそうになる。東の空は赤と青が入り混じり、爽やかすぎる透き通った色合いが逆に不安を煽った。

 弾かれたように私は走り出す。

 ただでさえ人が少ないのに、この時間はほかの誰の存在も感じない。まるで世界に私ひとりだけ取り残されたような感覚だ。

 差し迫るような胸騒ぎを消したくて、私は全力で駆ける。谷口商店の方にも向かったけれど、やっぱり穂高はいない。

 どこ? もしかして……。

『アメリカに渡る準備も整っている』

 息が切れて苦しい。胸の奥が焼けるように熱くて痛い。この痛みの正体はなんなんだろう。

 穂高の意志はきっと変えられない。私は彼になにを言うつもりなの? お別れをちゃんとしたいの?

『誰かを気遣ってあれこれ悩むくらいなら、自分の思うように動けばいいんだよ。どうせ相手の気持ちを百パーセント理解するなんて無理だ。だから自分が、ほのかがしたいようにすればいいんだ』

 私は胸元をぎゅっと押さえて走った。大通りに出て月城市の方向を見つめる。

 とにかく会いたい。会わなくちゃ。今すぐ彼に――。