バイバイまたね、クドリャフカ

 すると穂高は顔にかかった私の髪をそっと掻き上げ、私の目尻に唇を寄せた。驚きで瞬きさえできずに固まる。そんな私を見て穂高は笑った。

「涙が止まるおまじない」

 余裕たっぷりの彼に私は眉をひそめる。いくら彼がスキンシップが日本よりも激しいアメリカ育ちとはいえ、こういう手慣れた感はどうなんだろう。

 そもそもこの体勢だって……。

「会いに来たのが私じゃなくても、こんなふうにしてた?」

 どうしても確かめたくなって私は尋ねた。穂高にとって、私はタイミングよく現れたただの思い出作りの存在なのかな? 私じゃなかったとしても――。

「しない。ほのかだけだよ」

 額と額を合わせられ、お互いの吐息を感じるほどの距離だった。打って変わって彼の茶目っ気は鳴りを潜め、声にも表情にも真剣さだけを纏っている。

 軽く音を立て額に口づけが落とされた。伝わってくる温もりに再び涙腺が緩む。力強く抱きしめられ、窒息しそうになる。溺れそう。

 でも離さないでほしい。

 確実に世界は終わるのに、それがいつなのかわからないのは希望を持てる半面生殺しの状態だ。もういっそ、と何度思っただろう。
 
 だから私は、もしも世界が終わるときを選べるなら間違いなく今だと答える。

 苦しいのも、悲しいのも、寂しいのも、涙を流すのも、全部私がまだ生きているからなんだ。穂高が温かいのも、力強いのも、優しいのも、全部。

 何度も瞬きを繰り返すうちに急激に睡魔が襲ってくる。眠りたくないのに次第に意識が遠のいていく。

 瞼が重たくて目が開けていられない。穂高は大きな手で、いつまでも私の頭を撫でてくれていた。