目を引く彼を入学式で認識し同じクラスとはいえ、どちらかといえば地味で男子が苦手な私が彼と関わり合うのはきっとほとんどない。そう思っていた。

 ところが私と彼にはある共通点があって、よく会話するようになった。

『紺野さん、この問題教えてくれない?』

『原(はら)先生、いなかった?』

『今、三年生の補習中らしくて』

 困ったように目尻を下げる安曇穂高の表情は、捨てられた子犬とでもいうのか、どうも突き放せない。

 私はため息をついて読んでいた本を閉じた。

『どこ?』

 彼は嬉しそうに私の前の席に座り、うしろを振り向いて問題集を開いた。

『現国ってさ、文章を書かすだろ。はっきりとした正解があるわけでもないし、どうも苦手なんだ』

『英語だって英作文の問題あるでしょ?』

 そう言って私は彼の示す問題文を読んでいく。安曇穂高は優秀だった。いつも成績は学年でトップ。一番か二番のどちらか。

 そして私、紺野ほのかの成績も常に一番か二番だった。

 うちの学校は『月城高校』と市の名前を掲げ、こんな田舎にあるにも関わらず、全国的にもちょっとした有名な進学校だった。

 おかげで視察に訪れる学校関係者は後を絶たず、この学校に入学するため県外からやって来て一人暮らしをする学生も少なくはない。

 そんな学生のために市が専用の寮を作って生活を保障するなど行動し、それが称賛を呼んで入学希望者はさらに増えた。

 わざわざ家族で移住してくる人もいて、人口減少が問題となっている市としては学校のために投資するのは悪い話ばかりではないらしい。