「おい、そっちは女ばっかりだから、気を使うならこっちに来いって谷口さんが言ってたぞ。部屋は余ってるらしいからな。健二も喜ぶだろうし」

 宮脇さんの提案に穂高は困ったように頬を描いた。

「お気遣いありがとうございます。でも、俺はほのかと一緒でいいです」

「あらあら。でも部屋は別よ」

「わかってますよ」

 樫野さんのからかうようなツッコミを穂高はさらっと返す。深い意味はないはずなのに私はなんだか恥ずかしくなった。

 改めてお礼と挨拶をすると、宮脇さんは谷口さんのところに戻っていく。というわけで私たちは樫野さんのお宅で泊まることになった。

 まずはシャワーを借りて、一日の汗を流してさっぱりする。簡易な浴衣のようなものを着替えとして用意してもらったので、パジャマ代わりにしようと袖を通した。

 こうして世界が終わりそうでも、誰かのおかげで水道や電気、ガスは使えるんだから有難いな。顔も知らない誰かに支えられて、私たちは生きている。

 皮肉にも世界が終わりそうになって、当たり前が当たり前じゃないんだって気づかされた。

 髪をさっと乾かし、いつもは二階に上がっていくところを、今日はバリアフリーの廊下をまっすぐに歩いていく。極力足音を立てないように。どこか旅行に来たかのような感覚だ。

 部屋を案内されて気づいたのだが、私の部屋はどうやら穂高の隣の部屋らしい。

 理恵さんは万が一を考慮して、樫野さんの自室近くの部屋を宛がわれていると聞いている。

 部屋に入ってドアを閉め、私は壁際のベッドに横になった。

 べつになにもないし変に意識することでもない。とはいえ妙に緊張してしまうのも事実だ。疲れているのに目が冴えてしまう。

 わりとどこでも眠れる太い神経の持ち主だと思っていたけれど、その認識は改めた方がよさそうだ。