バイバイまたね、クドリャフカ

 穂高が一歩前に出る。

「白木さん、今日はありがとうございました。また」

 右手を白木さんに差し出すと、白木さんも力強く穂高の手を握った。

「こちらこそ。穂高くんも体を大事にね」

 ふたりの手が離れると、白木さんは今度は私に向き合った。

「お嬢さんもありがとう。よかったらまたおいで」

 差し出される白木さんの手を私も握る。穂高の手より小さくて皺もある。けれど同じように温かい。

「はい、また」

 応えるように指先に力を込めた。全員、次はないかもしれないってわかっている。これが最後かもしれないって。

 でも「また」という言葉には希望が宿っていた。口にして音となり耳に届くと、本当に叶いそうな気がする。暗闇の世界にわずかな光を灯した。

 外に出ると、山の上というのもあってわりと涼しい。剥き出しになっている腕を無意識に摩り辺りを見渡してみたが宮脇さんはまだ来ていなかった。

「穂高、今日はありがとう」

 唐突に、でも言わずにはいられない。たくさん、一言では表せられないほど彼には感謝の気持ちでいっぱいだ。

「どういたしまして。俺も楽しかったよ。ほのかとこんなふうに過ごせるなんて夢にも思っていなかったから」

 相変わらずストレートな彼の言葉に私は反応に困ってしまった。わざとらしくうしろで手を組み、一度空を見上げる。

「ねぇ、なんで日本語や現国が苦手だって嘘ついたの?」

「嘘?」

 突拍子もない質問に穂高はおうむ返しをする。私は軽く頷いた。

「うん。勉強を教えているときからずっと思っていたんだけどね。今日も日本語に困る素振りはまったくないし、むしろすごく上手だし。さらには宮沢賢治の銀河鉄道の夜まで読んでるんだもん」

 薄々と勘付いていたものが、今日彼と一緒に過ごしたおかげで確信に変わり、思い切って聞いてみる。