バイバイまたね、クドリャフカ

 張りつめていた糸が私を含め皆、徐々に緩んできたんだ。なにもしなくてもお腹は空くし眠くもなる。

 怯えや不安、絶望しながらもそれを抑えて日常生活を送るしかないと気づいてきた。

 それだけじゃない。終わる世界でもこうして誰かを好きになって、星を見ることもできる。恐怖だけじゃない、こんなにも温かい気持ちになれるんだ。

 これも全部穂高のおかげだ。星を観測している穂高の横顔をそっと盗み見る。最後に見ることができなくても、この顔をしっかりと覚えておきたい。今日の出来事も含めて全部。


 それから白木さんや穂高の天体話に耳を傾けつつ、ほかの星もたくさん見せてもらった。気づけば宮脇さんと約束した二時間はあっという間だ。

「今日は、本当にありがとうございました」

 私と穂高は白木さんにお礼を告げる。白木さんは終始穏やかな表情だ。だからあまり緊張せずに私はさらっと尋ねてみた。

「白木さんは、どうしてこちらにいらっしゃるんですか?」

 私の質問に白木さんは目を白黒させると、やっぱり優しく微笑んだ。

「ここはね、亡くなった妻との思い出の場所なんだよ。妻とは社会人になってから星好きの集まりみたいなものを通して知り合ってね。ふたりでよく星を見た」

 白木さんはなにかを思い出すように目を閉じる。

「だから最期はここで迎えたいと思ってね。宇宙や星好きの妻のことだ。いざ地球に月が落ちてくるとなったら、見逃せないと思ってきっと会いに来てくれるだろうから」

 穂高が似たような話をしていたのを思い出す。質問しておきながら私はなんて返せばいいのか言葉が見つからない。

 ただ、白木さんの奥さんに対する想いはしっかりと伝わってきた。夫婦の形も親子の形もきっと十人十色でそれぞれの絆があるんだ。