バイバイまたね、クドリャフカ

「あとは中で見ようか。そのために来たんだから」

 いつも通りの優しい声、穏やかな笑顔。胸がぎゅっと締めつけられる。意識しているのが私だけみたいで悔しい。

「行こう、ほのか」

 さらには繋いでいた手を力強く握り返され、あっさりと主導権は彼に移った。

 もう、ずるい。

 私は色々な意味でドキドキしながら穂高に続き、天文台の中へと足を進めた。

 西牧天文台は天文台と天文学習館を併設し、夜通し天体観測をするためか仮眠できるような部屋もあるらしい。当初はそこに泊まろうと穂高は考えていたんだとか。

 例年通りなら、この時期は小学生を対象とした天文教室や趣味の天文サークルの人たちで賑わうはずだった。けれど今は、静まり返っている。

 電気も最低限で薄暗い。ひんやりした空気が沈黙と共に肌に刺さる。そのとき、奥の事務室のようなところからひとりの男性が出てきた。

「これはこれは。珍しいお客さんだね」

 眼鏡をかけ、六十代くらいかな。ひょろっとした体格で髪は薄く、頭頂部が見えかけているるが紳士的な穏やかな雰囲気だ。

「白木(しらき)さん、こんばんは」

 穂高が挨拶すると、男性は目を細める。

「穂高くん、久しぶりだね。こんなときになんだが元気にしてたかい? 体調は?」

「おかげさまで。今日も星を見せてもらおうと思って」

 穂高の回答に白木さんは声をあげて笑った。

「君も本当に宇宙が好きなんだね。しかも今日は可愛いお嬢さんまで一緒とは」

 そこで白木さんの視線と共に、穂高の目も私に向けられる。

「ほのか、こちら白木卓(すぐる)さん。ここの管理者でもあり、さらには天文家でもあるんだ」

「アマチュアだけどね」

 白木さんが照れくさそうに付け足す。