『俺、宇宙に行きたいんだ』

 そういえば彼はそんなことも言っていた。閉じ込めていた思い出はふたを開ければ次々と心の奥底からあふれ返ってくる。

 忘れようとしたのに、懐かしい声がリアルに頭に響く。すると、じわじわと恋しさにも似た焦がれる気持ちが胸を覆っていく。

 会いたい。

 衝動的に私は駆け出しそうになる。自転車を取りに帰ろうか迷って、その時間さえ惜しくなり、このまま自分の足で行こうと決める。しっかりと地面を蹴って前に進み出した。

 どうして今なんだろう。今までにも機会はあったのに。全部今さらに終わるかもしれない。自棄を起こすってこういうことなのかな。

 けれど、どうせ自分を痛めつけたいのなら、なにかに心を縛られるならこっちの方がよっぽどいい。

『運命かも』

『なんの?』

 うん。様々な条件が重なってこうして今、私が彼に会うために行動に移せたのが運命なのだとしたら……。

『それは、これから考える』

 本当に考えたの? 答えは出た? 聞いてみたい。

 彼の家の場所は前に一度だけ教えてもらった。学校から月見ケ丘ニュータウンを過ぎ、さらに東の駅の近くにある。幸い記憶力はよかった。

 会えないかもしれない、という可能性は考えない。

 世界に溶けてぼやっとしていた自分の輪郭がはっきりした気がした。