「星宮!」

 香取くんの声が追ってくるけれど、構わず階段を駆け下りる。
 玄関でサンダルを引っ掛け外に出ると、自転車の鍵を外す。

(あ、門…)

 この大きな門扉をどうやって開けるんだろう、と途方に暮れかけたとき、玄関のドアが開いて香取くんが現れた。


「!」

「ほら、これ」


 私がテーブルに置き忘れた数学の問題集とペンケースを差し出す。

「…ありがと」

 受け取るけれど少し気まずい。


「…気をつけて帰って」

「……」


 香取くんは門を開けてくれる。

「さよなら」

 私は俯いたまま自転車を押して香取くんの家を出た。


 まだお昼の高い太陽が嫌がらせみたいに眩しい。
 我慢していた涙が一粒頬を伝い、地面に落ちる。一粒落ちると、二粒三粒、後から後から流れ出し、止まらなくなる。

「く…ぅ…うぅ…」

 視界がぼやけ、涙のプリズムの中で陽射しがきらきらと壊れて眼に突き刺さった。


 好きだったよ…香取くん。


『そんな香取くん…嫌いだよ!!』

 嫌いになれるわけないよ、今だって大好きだよ。

 でももう…


「さよなら、香取くん…」


     *   *   *