(幸せだなぁ)
なんてもぐもぐしていると、香取くんの呆れ声がした。
「お前よくそんな帯とか締めてそんだけ食えるね?」
「ぐっ…」
(いいもん別に…可愛くしてたって香取くんはどうせ私のことなんて見てくれないんだもん…)
こっそり唇を尖らせる。それから半分に切ったたこ焼きの残りを口の中に押し込んだ。
「ふっ」
香取くんが笑う。
(ふん、だ!笑え笑え!)
いっそ笑って私を諦めさせて…
「でもなんか…そうやって旨そうに食うの、俺結構好きだけどな」
「!!…ぅぐっ!」
今何て言った!?
慌てふためいて蛸を丸のまま飲み込んだ。
(く、苦し…)
私の胸の内─『ドキドキ』と『詰まった蛸』と両方の意味で─なんて知る由もなく香取くんは
「71点」
なんて採点する。
(何気に初めて及第点だし…)
『俺結構好きだけどな』─
分かってる。その『好き』にそんなに意味なんてないってこと。
でも。
香取くんが笑ってくれたのが単純に嬉しくなる。
人混みの中で近付いたり離れたりする私たち。それはフィジカルな距離だけじゃなくて、ふたりの心の距離もそんな風で。
時々不意に近付いてくるから、そう簡単に香取くんは私を諦めさせてはくれない。
だけど、だからこうして香取くんの傍にいられるんだ。



