それから香取くんは私がひとりでいるときも声を掛けてくれるようになった。


「よぅ」

なんて一言だけのこともあれば、私が英語の宿題を忘れて朝必死でやってると、

「何?今宿題やってんの?宿題になんねーじゃん」

なんて意地悪そうに言う時もあるし、教室の窓から裏庭を眺めながら気持ちのいい風に吹かれていると、

「何やってんだよ?」

なんて笑ってくれることもあった。

 のりかちゃんとまひろちゃんに羨ましがられるのはなんだか申し訳ない気持ちになるけれど、相変わらず友達はいつもの男の子2、3人だけの香取くんにそうやって『友達扱い』してもらえるのは単純に嬉しかった。

 香取くんとの会話はたった二言か三言なんだけれど、それでも毎日少し話ができる、その僅かな時間がだんだん私にとって大切で愛おしい時間に感じられてくるのが自分でも気付いていた。


 のりかちゃんとまひろちゃんほど付き合いの長い子でも香取くんがこんな風に気安く接する女の子はいないのに、私だけ、というのは…


(河川敷でのこと、秘密にしてるからだよね)


『秘密の共有』というのはこんなにも容易く人と人を結び付けてしまうのだな、ということを私は知った。

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