廊下は中庭から入る風が吹き抜け、とても涼やか。

 1階の廊下は中庭と裏庭を繋ぐために真ん中辺りで一度外に出る造りになっている。私がそのドアを開けるとそこは更に爽やかな風が吹いて、制服のプリーツスカートをふわりと揺らした。


(わぁ…いい気持ち)


 風に誘われるように私は上靴のまま中庭に出た。
 柔らかな木々の若葉に降り注ぐ朝陽が眩しい。

 花壇の脇のベンチに座る。パンジーとプリムラの香り。
 私はそっと眼を閉じる。


 校舎に生徒たちの楽しげな声は響いているけれど、ここには私ひとり。
 風が草葉をさやさやと揺する音さえも聞こえる、静かな時間。

 友達と過ごす時間も好きだけど、ひとりの時間も好き。


(いい学校に来たな)


 花の香り、風の音。それから…


 さくさくさく…


(え…?さくさく?)


 私はぱちっと眼を開けた。


 さくさく、と乾いた土を踏んで体育館の向こうから歩いてくる人影があった。


(体育館の向こうって…剣道の道場とかがあったっけ?)


 その人影をじっと見る。

 それは男の子だった。
 すらっと背の高い。ひょろっと、ではなくあくまでも、すらっと、という感じの。


 近付いてくる度だんだんとはっきりとする男の子の姿。

 すらりとした長身に長い脚。小さな顔。
 艶のあるの黒髪。鼻筋の通った顔立ち。切れ長の眼。
 綺麗な肌。長い睫毛に縁取られた黒水晶みたいな透き通る瞳。


(う…ゎ…なんて綺麗な…男の子!)


その時の私は多分馬鹿みたいにぽかんと口を開けて彼を見てたと思う。


その彼がさくさくと土を踏み、やがて私の前で、なんと立ち止まった。