「…なぁ」
本心は全然余裕なんかなくて星宮の方を見ることもできないくせに、それを隠して俺は言った。
「キス、しようか?」
星宮が息を飲むのが聞こえた。
「あっ、あの…え…?」
おどおどした声音。
そんなに俺が怖い?
「これはただの練習だから」
ただの練習なんて割り切れるわけない。
君が欲しくて俺は嘘を重ねる。
「どうするの?」
「……」
「嫌ならいいけど」
「……」
何か言ってよ。傷付くから。
「じゃあ…帰るから」
自分で言ったくせに居たたまれなくて踵を返した時、
「待って!」
星宮が俺のTシャツの袖を掴んだ。
「!」
「キス…教えて下さい」
「!!
…星宮」
真っ赤になって俯く星宮の上目遣いと眼が合った。
ドクドクと煩く音を立てて心臓が脈打つ。
「顔…上げて」
掠れる声で囁くと、星宮は余計に顔を伏せてしまう。
きっと星宮には初めてのキス。
それは俺も同じだけど…
『教えてやろうか?恋の仕方』
そういう条件で星宮と付き合ってるんだから馴れたふりをしなきゃいけない。
どうか緊張で身体中が震えているのを悟られませんように…
「これは…練習だから」
さっきは星宮に言った台詞を、今度は自分に言い聞かせるように呟く。
「大丈夫だから、心配しなくて」
「…うん」
星宮がこくりと頷く。
星宮の肩をそっと引き寄せる。
華奢な身体が更にきゅっと縮こまる。
もう一方の手で頬に触れると、肩がびくんと跳ねた。
「大丈夫、だから」
怯えないで。
大丈夫、これは…練習だから。
滑らかな頬の上を指をそろそろと滑らし、顎を捕らえる。そして儚げに俯く顔を少し強引にこちらに向けた。
眼の前で潤んだ瞳が宝石のように瞬く。
(!!)
抑えきれない昂る気持ち。
その顔、ヤバいって…
上気した頬と外灯の灯りに艶々した唇にくらくらする…
壊れるんじゃないかというくらい激しく打ち鳴る心臓。浅い呼吸。
見つめ合う星宮の瞳がゆっくりと閉ざされた。