(椅子じゃ届かなそうだな…)

 教壇の上にごとごとと机を運ぶ。
 それから上靴を脱いで机に上がり込む。


 うーん、と背伸びをするけれど…

(ちょ…ちょっと届かない…)


 どうしようかな…とちょっと考える。

 教卓なら届きそうだけど教卓を教壇の上に持ち上げるのは重そうだしなぁ。黒板からは少し離れてるけどこのまま教壇の下に置いたまま乗ってもなんとか届くかなー…

 私は机から教壇に乗り移る。
 再び黒板に向き直ってえいっ!と背伸びをするも…


「あっ!ちょ…」


 やっぱり黒板までの距離が離れ過ぎていて、あわや落ちそうになる。


(はー、やっぱ教卓動かさなきゃダメね…)


「…おい」


 めんどくさいなぁ…
 小さく溜め息を吐く。


「おい!」


(え?)

 私のこと呼んでる?
 室内を振り返る。

 と、すっかり人気がなくなった教室の前から3番目、私の席の隣で日直日誌を書いている香取くんの姿だけがあった。


「あ、の…私のこと、呼んだ?」

「他に誰がいんの?」

 香取くんはノートから顔も上げずに言った。


(あ、やっぱり呼ばれたんだよ、ね?)