不思議だ。気持ちを伝え合うのは難しいっていう気持ちを、今伝え合おうとしている。私たちの毎日に常に言葉が寄り添っているように、言葉には常に気持ちが寄り添っている。どんなに頑張ったって百パーセントは伝わらないものなのに、私たちは毎日、ボロボロになりながら、それを伝えようと叫んでいる。時にそれは伝わらなさ過ぎて、時にそれは痛いほど伝わり過ぎて、たまに勘違いもしちゃったりして、私たちは傷付く。
なのに、何で私たちはこんなにも伝えたいんだろう。
「咲良の話ってしたことあったっけ」
「君がよく一緒に遊んでる友達だっけ」
「そう」
「その子がどうかしたの」
「私たち、今三年生で、何て言うか、もうすぐ学生じゃいられなくなるんだなって思ったら、急に焦ってきてさ。他の友達にももちろんなんだけど、特に咲良には感謝してるから、それを伝えたいなって思って。まあ、どうせ卒業しても会うんだろうけど、私たちが学生のうちに言うことが大事な気がして」
「うん」
「だけど、どんなに感謝を伝えようとしたって、私たちは全く別の人間なわけじゃん。同じ空を見ていても自分の見ているものを上手く伝えられないように、私が伝えたい感謝の気持ちも、どんなに頑張っても百パーセントは届かないんじゃないかって」
「君から聞いた咲良さんのイメージだと、そんなこと彼女は気にしないで笑い飛ばしそうだけどな」
「あはは、そうかも」
「でも、そんなになっても伝えたいことがあるって素敵だと、俺は思うよ」
「素敵……か」
「それだけ誰かに思いを伝えたいってことは、それだけ誰かを思うってことだよね。さっき君が言ったけど、俺たちは全く違う生き物で、それぞれ自分の生活があって、自分の進むべき道がある。みんな本当は自分の道を歩くだけで精一杯なんだ。でもそんな中で誰かを思えるっていうのは、素敵なことだよ」