「...聞こえなかったか?」


男は少し首を動かして目だけで俺を見るようにして言う。


その睨むような目つきやいらだっている様子を隠そうともしない声色は、あまりにも威圧的だった。




...なんだよ、この男


俺は目の前の男にそう思いながらも、それを出さないていで口を開く。



「...別に、何も」



男はそれを聞いて、そうかと言うように、またこちらに背を向ける。




俺はただ黙って男の次の言葉を待った。



本当は俺からも聞きたいことは山ほどある。



ここはどこなのかとか、お前がどこの誰なのかとか。




でも、俺がそうしなかったのは、目の前にいる男にそれをしてはいけないと分かったから。