駅に向かって工場が所狭しと立ち並ぶ。
緑色のフェンスにおしりがめり込むように寄りかかっていた作業着姿の男が深いため息ををついた。

ガタガタ…ガタンっ、ガタガタ…



「兄貴、今日はなに?」

背中を向けたまま鍋のなかを掻き回す手を休めずにカレー、と応えて片手を伸ばす。

「福神漬けはいらない」

「買ってきてない…おい!」



30歳の女が人前で脱ぐな‼と足元に用意していたらしいTシャツを投げつけられて美桜は ブスッふくれた。

「あれは新しい男か?」

「は?あぁ…」

「容姿が似てる。忘れろ。その方がいい」

「悠祐(ゆうすけ)と比べないで」


台所の洗面器に皿を沈め、美桜はその水面を睨んだ。

「美桜」

ピシャッ‼

襖で仕切られた部屋の片隅で美桜は携帯をこっそりと開く。今でも、アルバムは悠祐との想いででいっぱいなのだ。キズついた。いっぱい、いっぱいキズついたはずなのに忘れられない。忘れたくないの…。

『ゴメン、忘れて。』

『卒業してからホンカノになる、ね?』

『…鈍感なの?』

『え?』

『君がここまで本気になると思っていなかったんだよ』


翌日、美桜は校長室で保護者同席のもとで話を受けた。

『小嶋(こじま)先生と有らぬ噂に困惑していられた。君も新任の彼をお兄さんのように慕っていたのかもしれないが、そうは周囲の敏感な年頃の生徒には別の感情を持つように見えてしまったのでしょう。
どうでしょうか、卒業式まで妹さんもつらいでしょうから自宅待機ということで』


幼くして両親を早くに亡くした私は5つ歳上の兄貴に頼ることしか出来なかった。

兄貴は担任の新任教師とプラトニックの末に結婚をして今はバツイチで。








『辞めます。退学します』


呆気に取られる大人をよそに部屋を出ると悠祐が購買のパンをかじっていた。

『……』

目が合うと彼はすぐさま、視線を外した。

『…辞めますから…学校』

『君が決めたなら僕はとめませんよ』


先生ぶって。