「…今、何て言った?」

携帯ジャックを外しながらガードレールから降りてやっと目があった。
初めて逢ったときよりガサツ、失敬――ラフなジーパンと白Tシャツ姿も彼女。

トゥルルルル…トゥルル…


いたたたまれない空気の中で助け船のように彼女の電話が鳴った。

胸を撫でおるす俺は出来るだけ冷静な口調で尋ねた。

「出ないの?電話」

ここに来た初日、淡い夢から現実に戻した張本人の彼女が今、目の前にいる。

「あぁ…良いのいいの」

あっさりとジーンズのポケットに捩じ込んでペットボトルの口を捻る。


「期間限定」

「…ん?」


彼女は地面の影を見たまま呟いてくすり…と笑った。
たまに日とが通るくらいの畦道を自転車に股がった彼女と俺しかいない。むしろ、このクソ暑い中で雀一羽、カラス一羽居やしないのに自分ら何してんだろう。

「LINE教えて」

飛び上がるほど嬉しかった。
余りにも突拍子もなくて行動が共会わなくてぼんやりと
余韻に浸っていた。

「出来やんの?」

スマホの画面をチラチラ気にしながら上目使いに待っている。

「…あ、うん。出来やん」

「あっそう」


彼女はポケットに再び捩じ込んで乱暴に自転車のスタンドを蹴りあげた。

「…え?交換は?」

「出来やんて自分で言うたやに」

「あー、出来る。交換は出来る」

クスクス笑って彼女は黙って俺の携帯を引ったくって暫くして返してきた。

「篶沢美桜(すずさわ みお)18歳。基本、メッセージ。電話したら二度と一生、会わない」

凄んで。

――――分かった?

…と加えた。






「篶沢美桜」


「何」


「美桜って呼びたい」


行だした足が止まった。
俺は危なく、彼女の影を踏むところだった。

「一人のときだけ」

「…彼氏、いたの?」

「彼氏じゃない」

乾いた声に智広はこれ以上、聞いちゃいけないと思った。背中を向けたままなことを良いことに自問自答に頷いて帰る、と切り出した。

『LINE、ありがとう。また、連絡する』

うん、と応えるように彼女の頭は小さく何度か揺れた。



こうして暫く、彼女の後ろ姿をみていた俺も駅に向かって行だした。

カシャンッ…