「…三重県て何処よ」

夕飯に出てきた冷やし中華のベーコンを唇に挟んだまま返す俺に母親が麦茶の入ったコップを差し出しながら当然のように話を切り出した。

「美咲(みさき)は今年、受験だもの」

美咲は1つ違いの姉である。

「俺、来年なんですけど。部活だって試合なきゃバイトに行ってる追い込みの夏‼」

「バイトしなくても社会人になったら月収の良いところに就けばいいの。」

「ごちそうさまでした」

「浸けといて良いからね」

はーい、何てゆるい返事をして姉はさっさと席を離れていった。
母方の祖父は三重県に今もずっと住んでいるそうだが、結婚してからは小さい頃には交流はなかった。
なんでも俺らの父親が気に入られていなかった、とか言う男親独特の理由だとか。


東京から車で5時間、電車で3時間。
キャリーバックに一週間分の着替えを詰められて往復のチケットを持たされた。


「あとは洗濯機を借りて干しなさい」

「8月いっぱいて可笑しいだろ」

文句を言うのもつかのま。
逃げそう、と新幹線のドア前まで見送られた。
携帯ゲームをしようとスマホを開けば。



ネット、通信不能。


―――嘘だろ?

動いてるから?

ながらスマホを予防…って俺、暇なんですけど‼



イライラしてふて寝。




怠い体をもじもじネジって窓の外を見ると
山、山、山。
田んぼ、田んぼ、田んぼ。

―――あ、夕焼け。めっちゃ綺麗。





空が高い。