「親のことも、自分のことも全部忘れてた。
今もまったく思い出せてねぇ。
それが怖くて、なのにいきなり『両親だ』って言われたり学校通えって言われたり。
そんなの受け入れるわけなくて、中学はずっと荒れてた。喧嘩ばっかして」
その時。
ある一つの考えが、頭に浮かんだ。
だけど、そんなはずないって慌ててそれをかき消す。
だって、違う。
名前が……苗字が。
「そのせいで覚えてねぇ両親が喧嘩ばっかして、離婚したんだ。
全部俺のせいで、家族崩した。
ずっと俺はそんな風に生きてたんだ」
離婚。
その言葉で可能性がゼロじゃなくなってしまって。
嫌な汗が流れ始めたけど夏の暑さのせいにする。
だって確かに晴樹は……
死ん、だ…?
本当に晴樹は死んだ?
今思えば最後に会ったのは危険な状態の時で、誰からも『晴樹は死んだ』なんて聞いたことはなかった。
でも、だからといって………
「……むら、た…」
「……どうした?」
聞かなければよかった。
聞くべきじゃなかったのに。
どうして私は……
「前の、苗字って、なんだった…?」
聞いてしまったんだろう。



