「……私も、聞きたい。
村田のこと」
村田の方を向いて、目をそらさずそう言った。
「……さんきゅ」
すると村田は笑った。
かと思えば海の方を向いた。
そしてまた、口を開く。
「……実は俺さ、中学の時事故に遭ったんだ。
それも生死さまようくらいの大きい事故」
事故…。
生死を、さまよう……?
その言葉になぜか引っかかるものがあった。
もちろん私は知らなくて、初めて聞くことだったから素直に驚いたけどそれだけじゃない気がする、この気持ち。
「それで奇跡的に助かったのはいいんだけどさ……
ないんだ、記憶。
事故前の記憶全部」
ドクンと、心臓が嫌な音を立てる。



