「危ないので下がっていてください」
医者に優しい声で言われたけど、表情は険しかった。
素直に従うけど身体の震えが止まらなくて足が思うように動かない。
「……っ、晴樹!」
そんな中、電話を終えたのであろう紗江さんが病室に戻るなりベッドに駆け寄る。
その時、紗江さんが私を見た。
その顔はひどく切なげで、息が苦しくなって。
もしかして、もう手の施しようがないの…?
晴樹は死んでしまうの…?
「里穂ちゃん…今日は来てくれてありがとう。
でも、もう大丈夫だから……
晴樹のことも、私たち家族のことも全部忘れていいからね」
一瞬、言葉の理解に遅れた。
「な、何言ってるの…?
紗江さん、冗談だよね?」
「……すいません、この子を待合室に連れて行ってほしいです。
お願いします」
私の言葉を無視して、近くの看護師にそう言った。
そしてもう一度私を見たかと思えば……
目にたくさんの涙をためて、紗江さんは無理矢理笑った。
突き放すのに、どうしてそんな悲しそうな顔をするの?
私の、ため……?



