「村田……?」
私が名前を呼ぶと、こっちを見た。
その時の表情は穏やかで、切なくも見えるから不思議だ。
「なんかさ」
私を見つめた村田は口を開いた。
でも……
「……いや、やっぱなんでもねぇ」
と言うのをやめ、つながれた手が離されてしまう。
「じゃあな、また明日」
聞き返そうにも、村田が優しく笑ってそう言うから結局聞けなかった。
「うん、また明日」
村田が背を向けてしまう。
歩き出してしまったその後ろ姿を見つめながら、心に残る違和感とドキドキした感情が混じり合った自分がいることに私は戸惑っていた。