壱はとても嬉しそうで、心なしか頬が赤く染まっているように見えた。



「そろそろ花火の時間だ。いつものとこ行こ?」
「ああ、綿菓子買っていくか?」
「うん!」


綿菓子を一つ買って、神社の石段を上がる。

上がりきった先の林を抜けた場所は俺達の秘密の場所だ。


人が来ない、花火がよく見える場所。


壱が教えてくれたこの場所で、俺達は毎年空に上がる花を眺める。



「今年も誰もいないね!」


芝生に腰を下ろした壱。


少し近めに俺も腰を下ろした。


「……そんなに近づかなくても周り空いてーー」
「ーーダメ?」



首を傾げた壱の目を覗き込むように見つめる。



「だ、めじゃ、ないけど……」
「ここがいいんだ。」
「そう……。」



指先が少し触れ合った。

それは確かに熱を持っていて、暗がりでも壱の顔が赤くなっているのが分かる。



「……壱、俺はーー」



言い掛けた俺の言葉は、夜空に咲いた花火の音に飲み込まれていった。



「あ、花火……」


一瞬にして俺達の視線は空へ奪われる。


二発目の花火が散り終えて、俺はもう一度壱へと向き直った。


「壱、俺はお前が………お前のことがーー」
「ーー悟、ダメだ。それ以上は、ダメなんだ。キミは僕を、僕なんかを好きになっちゃダメなんだよ。」


俺の言葉を制するように指先が唇に押し当てられる。



「………僕らの夏は、ここで終わるから。」



花火の音に負けないぐらい凛とした響きのある声音で。

でもそう言った壱の顔は今にも泣き出しそうだった。